2011年10月30日
町長襲撃15年 時効が成立
急接近:柳川喜郎さん 言論封じる暴力に社会が立ち向かうには
岐阜県御嵩町の柳川喜郎町長(当時)が襲撃された殺人未遂事件の公訴時効(15年)が30日に迫っている。町で進められていた産廃処理施設計画が背景にあるとみられているが、真相は闇の中。言論を封じる暴力に社会はどう立ち向かうべきか。柳川さんに聞いた。【聞き手・三上剛輝、岡大介、大竹禎之】
◇情報公開に徹し団結を--殺人未遂事件の時効が迫る前岐阜県御嵩町長・柳川喜郎さん(78)
--事件は夕暮れ時に起きました。
◆ 役場の仕事を終えて自宅マンションのエレベーターを降りようとしたところ、左側にいた男と目が合いました。普段は人に会わないので「珍しいな」と思った直後、棒状のもので突然頭を殴られました。すぐ後ろから身長180センチくらいの男も加わり、めった打ちにされました。不思議と痛みは感じませんでしたが、骨が砕ける衝撃は、はっきり覚えています。医者に「あと数センチずれていたら死んでいた」と言われるほどの大けがでした。
--産廃処理施設計画にストップをかけたことが事件の背景だと主張されています。
◆ 利益率が20%を超えるといわれる産廃業界の甘い蜜には、これまで暴力団や右翼団体が群がってきました。御嵩町の計画でも多額の金が動いたようです。そんな中、計画凍結を打ち出した私が疎ましかった人は多いでしょう。県警は報告書で産廃施設計画を「魑魅魍魎(ちみもうりょう)の温床」と表現しました。
計画は密室の交渉で進められました。前の町長時代、産廃施設計画に否定的だった町が、業者から35億円の協力金を受け取るとの条件で容認するようになりましたが、住民には一切知らされなかった。その後、反対派には脅迫や嫌がらせが相次ぎました。記者として海外の軍事政権を取材し、言論弾圧を経験していた私は「民主主義国家でこんなことがまかり通っていいはずがない」とカッとなりました。
計画地は巧妙に選ばれていました。名古屋市などの水源となる木曽川の取水口が近く、水質汚染の危険性がありましたが、御嵩町民は別の川の水を飲んでおり、直接の影響はありません。また、町はかつて亜炭の採掘で栄えましたが、近年は近隣の市のはざまに埋没しています。産廃施設は誰もが嫌がる「迷惑施設」ですが、住民に直接の悪影響がなく、財政が潤うのならば、田舎町は建設容認に傾くでしょう。しかし、名古屋市民など500万人の水が汚される恐れがあったのです。
--警察は柳川さんの失脚を狙って自宅を盗聴した11人を逮捕し、関連事件を含めると計34人を検挙しましたが、襲撃事件は未解決です。
◆ 県警が必要十分な捜査をしたかは疑問です。犯人が逃走したのに緊急配備をかけませんでした。実行犯として浮上した男もいましたが、つぶしきれていないようです。
--行政への暴力や不当要求をなくすため何が必要ですか。
◆ 大原則は情報公開の徹底です。計画の立案から決定までの流れ、予算編成などをオープンにする。情報を隠すと、そこからおかしくなる。御嵩町は「知る権利」を明記した情報公開条例を制定しました。ただ、それだけでは暴力団や右翼団体の圧力は止まらないでしょう。毅然(きぜん)とした態度で臨み、首長や窓口の担当者を孤立させないことが大切です。栃木県鹿沼市では01年、市と廃棄物処理業者の癒着を正そうとした職員が殺害されました。職員は孤立無援の状態でした。泣き寝入りや責任の押しつけをせず、団結して立ち向かうことです。
◇議論重んじ民意に戻れ
--事件後の97年に産廃施設計画の是非を問う住民投票を実施し、8割が反対に回りました。
◆ 以前は立ち話や井戸端会議でも産廃の話はタブーでした。「もの言わない社会」は民主主義に反します。民主主義は「説得」の繰り返しです。どんなことにも賛成、反対意見がある。時間と手間をかけて議論し、皆が納得いく結果を導き出す。これを省くと独裁や隠蔽(いんぺい)、暴力につながります。私は町内41カ所で説明会を開きました。
住民投票は万能ではありませんが有効な手段です。間接民主主義は現在、議員の質の低下などで金属疲労を起こしています。首長と議会がねじれた場合や、地域にとって重要な事項を決定する場合は、原点の直接民主主義に戻るべきです。ただ、民意はムードで決まってしまう恐れがあるので、時間とエネルギーをかけて議論できる風土を作ることが大切です。
--東日本大震災で大量に発生したがれきの処理が問題になっています。
◆ 産廃施設計画の凍結を打ち出した時、「処分場はいずれ満杯になる。お前たちもごみを出しているのに、受け入れないのは無責任だ」との批判もありました。しかし、計画が中止になって処理施設が足りなくなったという話は聞きません。環境意識の高まりから産廃の排出量が減り、リサイクルに力を注ぐようになったのです。
震災のがれきも構図は同じです。処分場建設に向け、暴力団や右翼団体が群がる可能性もあります。処分場を造るにしても、偽りのロジックにだまされてはいけない。中和や破砕などの中間処理にコストをかければ、量を減らすことができるはずです。処分場の建設の是非やその内容は、オープンに議論してほしい。
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岐阜県御嵩町の柳川喜郎町長(当時)が襲撃された殺人未遂事件の公訴時効(15年)が30日に迫っている。町で進められていた産廃処理施設計画が背景にあるとみられているが、真相は闇の中。言論を封じる暴力に社会はどう立ち向かうべきか。柳川さんに聞いた。【聞き手・三上剛輝、岡大介、大竹禎之】
◇情報公開に徹し団結を--殺人未遂事件の時効が迫る前岐阜県御嵩町長・柳川喜郎さん(78)
--事件は夕暮れ時に起きました。
◆ 役場の仕事を終えて自宅マンションのエレベーターを降りようとしたところ、左側にいた男と目が合いました。普段は人に会わないので「珍しいな」と思った直後、棒状のもので突然頭を殴られました。すぐ後ろから身長180センチくらいの男も加わり、めった打ちにされました。不思議と痛みは感じませんでしたが、骨が砕ける衝撃は、はっきり覚えています。医者に「あと数センチずれていたら死んでいた」と言われるほどの大けがでした。
--産廃処理施設計画にストップをかけたことが事件の背景だと主張されています。
◆ 利益率が20%を超えるといわれる産廃業界の甘い蜜には、これまで暴力団や右翼団体が群がってきました。御嵩町の計画でも多額の金が動いたようです。そんな中、計画凍結を打ち出した私が疎ましかった人は多いでしょう。県警は報告書で産廃施設計画を「魑魅魍魎(ちみもうりょう)の温床」と表現しました。
計画は密室の交渉で進められました。前の町長時代、産廃施設計画に否定的だった町が、業者から35億円の協力金を受け取るとの条件で容認するようになりましたが、住民には一切知らされなかった。その後、反対派には脅迫や嫌がらせが相次ぎました。記者として海外の軍事政権を取材し、言論弾圧を経験していた私は「民主主義国家でこんなことがまかり通っていいはずがない」とカッとなりました。
計画地は巧妙に選ばれていました。名古屋市などの水源となる木曽川の取水口が近く、水質汚染の危険性がありましたが、御嵩町民は別の川の水を飲んでおり、直接の影響はありません。また、町はかつて亜炭の採掘で栄えましたが、近年は近隣の市のはざまに埋没しています。産廃施設は誰もが嫌がる「迷惑施設」ですが、住民に直接の悪影響がなく、財政が潤うのならば、田舎町は建設容認に傾くでしょう。しかし、名古屋市民など500万人の水が汚される恐れがあったのです。
--警察は柳川さんの失脚を狙って自宅を盗聴した11人を逮捕し、関連事件を含めると計34人を検挙しましたが、襲撃事件は未解決です。
◆ 県警が必要十分な捜査をしたかは疑問です。犯人が逃走したのに緊急配備をかけませんでした。実行犯として浮上した男もいましたが、つぶしきれていないようです。
--行政への暴力や不当要求をなくすため何が必要ですか。
◆ 大原則は情報公開の徹底です。計画の立案から決定までの流れ、予算編成などをオープンにする。情報を隠すと、そこからおかしくなる。御嵩町は「知る権利」を明記した情報公開条例を制定しました。ただ、それだけでは暴力団や右翼団体の圧力は止まらないでしょう。毅然(きぜん)とした態度で臨み、首長や窓口の担当者を孤立させないことが大切です。栃木県鹿沼市では01年、市と廃棄物処理業者の癒着を正そうとした職員が殺害されました。職員は孤立無援の状態でした。泣き寝入りや責任の押しつけをせず、団結して立ち向かうことです。
◇議論重んじ民意に戻れ
--事件後の97年に産廃施設計画の是非を問う住民投票を実施し、8割が反対に回りました。
◆ 以前は立ち話や井戸端会議でも産廃の話はタブーでした。「もの言わない社会」は民主主義に反します。民主主義は「説得」の繰り返しです。どんなことにも賛成、反対意見がある。時間と手間をかけて議論し、皆が納得いく結果を導き出す。これを省くと独裁や隠蔽(いんぺい)、暴力につながります。私は町内41カ所で説明会を開きました。
住民投票は万能ではありませんが有効な手段です。間接民主主義は現在、議員の質の低下などで金属疲労を起こしています。首長と議会がねじれた場合や、地域にとって重要な事項を決定する場合は、原点の直接民主主義に戻るべきです。ただ、民意はムードで決まってしまう恐れがあるので、時間とエネルギーをかけて議論できる風土を作ることが大切です。
--東日本大震災で大量に発生したがれきの処理が問題になっています。
◆ 産廃施設計画の凍結を打ち出した時、「処分場はいずれ満杯になる。お前たちもごみを出しているのに、受け入れないのは無責任だ」との批判もありました。しかし、計画が中止になって処理施設が足りなくなったという話は聞きません。環境意識の高まりから産廃の排出量が減り、リサイクルに力を注ぐようになったのです。
震災のがれきも構図は同じです。処分場建設に向け、暴力団や右翼団体が群がる可能性もあります。処分場を造るにしても、偽りのロジックにだまされてはいけない。中和や破砕などの中間処理にコストをかければ、量を減らすことができるはずです。処分場の建設の是非やその内容は、オープンに議論してほしい。
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Posted by アイル新日本 at 05:21│Comments(0)
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