2011年10月26日
クローズアップ2011:「自転車は車道」通達
クローズアップ2011:「自転車は車道」通達 市民の認識徹底へ
◇インフラ整備進まず
警察庁が25日公表した自転車交通総合対策は、自転車は「車両」であるとの意識を全ての者に徹底させるとうたい、法律通りの原則車道走行を強く促した。歩道走行は一時的な例外として導入されながら、40年以上放置されてきており、警察の姿勢転換は日本の自転車事情を大きく変える一歩だ。だが、車道走行の安全を確保するインフラ整備は進んでおらず、国民の認識を変えていくことも大きな課題だ。【北村和巳、馬場直子、伊澤拓也】
「自転車は『車両』と交通社会を構成する全ての者に徹底させる」。警察庁は総合対策で基本的な考え方を明示した。道路交通法は自転車を軽車両と規定、車道の左側走行を原則としている。しかし、現実には信号無視や右側走行など違反が後を絶たない。
警察庁は今回、多くの歩道で自転車の通行を認めていたことが、社会に「自転車は車の仲間ではない」との誤解を生み、マナー悪化につながったと認めた。担当者は「本来の決まりを徹底させることが、自転車の安全につながる」と説明する。
総合対策は、自転車を歩道から車道に導く対策を初めて具体的に提示した。まず目を引くのが自転車が通行できる歩道の見直しだ。
警察は歩行者の通行に支障がない原則幅2メートル以上の歩道で「自転車通行可」の指定をしてきた。総合対策はこのうち、幅3メートル未満について見直しを指示。交差点で横断歩道の横に設けられた「自転車横断帯」の一部撤去も打ち出した。横断帯は通行を義務づけられるが、歩道と接続されているため車道を走る自転車は左折を余儀なくされ、車による巻き込み事故の危険性が指摘されていた。撤去されれば自転車は車道を直線的に横断できる。
また、自転車道や自転車レーンの整備手法を具体的に例示。自転車が走る空間を確保するため、自転車が特に多い片側2車線以上の道路は車の車線を減らす▽利用率の低いパーキングチケット発給設備を撤去する--などを挙げた。欧州で採用される、車の停止線の前に自転車用の停止線を引く▽自転車専用信号を設け車より先に通行させる--といった安全対策も実情に応じ実施することにした。
一方で、子供や高齢者は引き続き歩道走行を認めた。保険加入の必要性を理解させ、子供だけでなく広くヘルメットの着用を促すことも盛り込んだ。
◇専用レーンわずか200キロ
総合対策の実現は今後の取り組みにかかる。09年度末現在で、全道路約120万キロに対し自転車道は約1300キロ、自転車レーンは約200キロにとどまる。設置には国土交通省や自治体との協議に加え、沿道の商店街など地元との調整が不可欠だ。
また、今回は自転車と歩行者の通行路が色分けされた歩道については言及しなかった。警察庁は「自転車の通行路が分離されていないところを優先した」と説明するが、歩行者からは「自転車と入り乱れる危険がある」との指摘がある。
自転車利用者や車のドライバーの意識変革も大きな課題だ。警察庁は学校に自転車教室を授業に組み込むよう強く要請するほか、運転免許更新時や企業の担当者を通じた大人へのルール周知も指示。ルール違反への指導・取り締まりを強化するが、地道な取り組みが求められる。
◇通勤通学の手段 震災後、利用増が後押し
道交法は60年の制定時、自転車は車道走行と定めたが、70年と78年の改正で歩道走行を例外的に容認した。その後、歩道走行は一般化し、原則と例外が逆転していた。
歩道走行を認めた背景には、60年代後半からの「交通戦争」がある。交通事故死者は70年に過去最悪の1万6765人に達し、車との衝突事故を防ぐ必要性が高まっていた。81年に国会で歩道走行について問われた建設省道路局長(当時)は「やむを得ず緊急避難的に歩行者と自転車を同一の空間に収容せざるを得ない」と答弁。政府の認識としても、あくまで一時的な措置のはずだった。
しかし、歩道走行は長らく見直されなかった。警察幹部OBは「増え続ける車の事故対策と渋滞対策で手いっぱい。自転車まで手が回らなかった」と振り返る。自転車と歩行者が一緒に通る自転車歩行者道の整備が進み、現場の警察官が「車道走行は危ない」「歩道を走って」と話す場面も出てきた。一方で自転車と歩行者の事故は、99年からの10年間で3・7倍に急増した。
これに対し、欧州諸国は自転車の車道走行を維持。自転車レーンの整備やマナー向上に力を入れた。日本の自転車乗用中の事故死者(事故後30日以内)は80年の1366人から09年は933人と3割減だが、同時期にフランスやドイツ、英国は6~7割以上減らした。
警察庁は06年、法律違反した自転車への指導・取り締まり強化を都道府県警に通達し、08年施行の改正道交法で歩道走行できる自転車の要件を明確化した。しかし、目に見える成果は出なかった。
警察庁の自転車対策検討懇談会委員を務めた住信基礎研究所の古倉宗治研究理事は「警察庁の通達に安全の裏打ちがなく、現場に事故が増えたらまずいという気持ちがあったのだろう」と推測する。
今回の総合対策について、ある警察幹部は「東日本大震災以降、通勤通学の手段として自転車の位置付けが高まったことが背景にある」と指摘する。さらに複数の警察関係者によると、今月勇退した安藤隆春前長官は自転車事故防止に関心を持ち、警察幹部に「全国で取り組むべき課題。各警察本部で対策を進めたい」という趣旨の発言をしていたという。
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◇インフラ整備進まず
警察庁が25日公表した自転車交通総合対策は、自転車は「車両」であるとの意識を全ての者に徹底させるとうたい、法律通りの原則車道走行を強く促した。歩道走行は一時的な例外として導入されながら、40年以上放置されてきており、警察の姿勢転換は日本の自転車事情を大きく変える一歩だ。だが、車道走行の安全を確保するインフラ整備は進んでおらず、国民の認識を変えていくことも大きな課題だ。【北村和巳、馬場直子、伊澤拓也】
「自転車は『車両』と交通社会を構成する全ての者に徹底させる」。警察庁は総合対策で基本的な考え方を明示した。道路交通法は自転車を軽車両と規定、車道の左側走行を原則としている。しかし、現実には信号無視や右側走行など違反が後を絶たない。
警察庁は今回、多くの歩道で自転車の通行を認めていたことが、社会に「自転車は車の仲間ではない」との誤解を生み、マナー悪化につながったと認めた。担当者は「本来の決まりを徹底させることが、自転車の安全につながる」と説明する。
総合対策は、自転車を歩道から車道に導く対策を初めて具体的に提示した。まず目を引くのが自転車が通行できる歩道の見直しだ。
警察は歩行者の通行に支障がない原則幅2メートル以上の歩道で「自転車通行可」の指定をしてきた。総合対策はこのうち、幅3メートル未満について見直しを指示。交差点で横断歩道の横に設けられた「自転車横断帯」の一部撤去も打ち出した。横断帯は通行を義務づけられるが、歩道と接続されているため車道を走る自転車は左折を余儀なくされ、車による巻き込み事故の危険性が指摘されていた。撤去されれば自転車は車道を直線的に横断できる。
また、自転車道や自転車レーンの整備手法を具体的に例示。自転車が走る空間を確保するため、自転車が特に多い片側2車線以上の道路は車の車線を減らす▽利用率の低いパーキングチケット発給設備を撤去する--などを挙げた。欧州で採用される、車の停止線の前に自転車用の停止線を引く▽自転車専用信号を設け車より先に通行させる--といった安全対策も実情に応じ実施することにした。
一方で、子供や高齢者は引き続き歩道走行を認めた。保険加入の必要性を理解させ、子供だけでなく広くヘルメットの着用を促すことも盛り込んだ。
◇専用レーンわずか200キロ
総合対策の実現は今後の取り組みにかかる。09年度末現在で、全道路約120万キロに対し自転車道は約1300キロ、自転車レーンは約200キロにとどまる。設置には国土交通省や自治体との協議に加え、沿道の商店街など地元との調整が不可欠だ。
また、今回は自転車と歩行者の通行路が色分けされた歩道については言及しなかった。警察庁は「自転車の通行路が分離されていないところを優先した」と説明するが、歩行者からは「自転車と入り乱れる危険がある」との指摘がある。
自転車利用者や車のドライバーの意識変革も大きな課題だ。警察庁は学校に自転車教室を授業に組み込むよう強く要請するほか、運転免許更新時や企業の担当者を通じた大人へのルール周知も指示。ルール違反への指導・取り締まりを強化するが、地道な取り組みが求められる。
◇通勤通学の手段 震災後、利用増が後押し
道交法は60年の制定時、自転車は車道走行と定めたが、70年と78年の改正で歩道走行を例外的に容認した。その後、歩道走行は一般化し、原則と例外が逆転していた。
歩道走行を認めた背景には、60年代後半からの「交通戦争」がある。交通事故死者は70年に過去最悪の1万6765人に達し、車との衝突事故を防ぐ必要性が高まっていた。81年に国会で歩道走行について問われた建設省道路局長(当時)は「やむを得ず緊急避難的に歩行者と自転車を同一の空間に収容せざるを得ない」と答弁。政府の認識としても、あくまで一時的な措置のはずだった。
しかし、歩道走行は長らく見直されなかった。警察幹部OBは「増え続ける車の事故対策と渋滞対策で手いっぱい。自転車まで手が回らなかった」と振り返る。自転車と歩行者が一緒に通る自転車歩行者道の整備が進み、現場の警察官が「車道走行は危ない」「歩道を走って」と話す場面も出てきた。一方で自転車と歩行者の事故は、99年からの10年間で3・7倍に急増した。
これに対し、欧州諸国は自転車の車道走行を維持。自転車レーンの整備やマナー向上に力を入れた。日本の自転車乗用中の事故死者(事故後30日以内)は80年の1366人から09年は933人と3割減だが、同時期にフランスやドイツ、英国は6~7割以上減らした。
警察庁は06年、法律違反した自転車への指導・取り締まり強化を都道府県警に通達し、08年施行の改正道交法で歩道走行できる自転車の要件を明確化した。しかし、目に見える成果は出なかった。
警察庁の自転車対策検討懇談会委員を務めた住信基礎研究所の古倉宗治研究理事は「警察庁の通達に安全の裏打ちがなく、現場に事故が増えたらまずいという気持ちがあったのだろう」と推測する。
今回の総合対策について、ある警察幹部は「東日本大震災以降、通勤通学の手段として自転車の位置付けが高まったことが背景にある」と指摘する。さらに複数の警察関係者によると、今月勇退した安藤隆春前長官は自転車事故防止に関心を持ち、警察幹部に「全国で取り組むべき課題。各警察本部で対策を進めたい」という趣旨の発言をしていたという。
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Posted by アイル新日本 at 06:26│Comments(0)
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